【連載】元書店員の本屋の話[1冊目]

元書店員の本屋の話

今回は書店員をしていた頃の書店事情についてのお話です。

堅苦しいような書き方しても面白くはありませんし、私にそんなことは出来ませんので、

ざっくばらんに時にはおちゃらけながら当時の事を書いていこうと思います。

出版社の皆さま、著者の皆さまをはじめ、書店に興味ある方に

書店のことを少しでも知っていただければ幸いです。

さて、第1回のテーマはこちらになります。

本日のテーマ

書店の朝は雑誌と戦うお仕事

1.雑誌の加工

2.雑誌の品出し

3.定期購読のメリット

4.定期購読のアナログ帳簿

5.雑誌のクレームとエピソード

連載一覧

・【1冊目】書店の朝は雑誌と戦うお仕事

【2冊目】思い描いた売り場を作る -注文編-

【3冊目】思い描いた売り場を作る -品出し編-

【4冊目】フェアで売場を華やかにする

【5冊目】束の間もしくは永遠の別れ、返本作業

【6冊目】コンビニ化する書店をどう考える?

【7冊目】コンビニ化しない為に抗ったこと

ご注意

  • 当記事は過去に私が書店で経験した内容になります。
    全国の書店がここに書かれていることと同じとは限りません。

  • 出版業界の情勢上、批判的なことを書くこともありますが、
    他の書店や書店員を否定・貶める意図はございません。

  • 以上をご理解の上、数ある情報のひとつとしてお読みくださいませ。

書店員の朝は雑誌と戦うハードなお仕事

1.雑誌の加工と品出し

書店員、朝の仕事は雑誌と格闘するところから始まります。

週刊誌、月刊誌、季刊誌、ムック本※1、あらゆる雑誌と戦います。

 check!! 

※1【ムック本】

書籍と雑誌を足して2で割ったような本…もある。
と言うのは、文房具や雑貨品など書籍の体裁を保っていないものもあり、
ムック本の種類は多岐に渡る。

雑誌や書籍は ほぼ毎日入荷しますので、ほぼ毎朝下記で書いたような作業をします。

加工

まず、雑誌には冊子からバッグまで多種多様な付録がおまけとしてついてきます。

これらを紛失・万引き防止の為に輪ゴムや紐で加工します。

朝一で頭がトップギアになっていない状態で簡単な反復作業は楽と言えば楽なのですが、

1日、15日、20日など各雑誌が大量に発売される日などその作業は尋常な量ではなく、

ウォーミングアップと言うにはかなりヘビーで、朝だけで終えることは出来ません。

そういう場合はまず一通り出して開店後随時加工して出していくという流れになります。

大変な雑誌を挙げると私の記憶では各種女性誌が断トツにトップ、

次点でコロコロコミックでした。

女性誌の多くは付録がほぼ毎月付き、

発売日がほぼ被っている上にカラーページな為にとにかく重いので重労働。

後者のコロコロコミックはトップレベルの入荷数でした。

コロコロコミックは書籍のサイズが小さい為、

付録も少し考えて挟まないと綺麗に詰めません。※2

 check!! 

※2【雑誌に付録を挟む】

同じページに同じ順番で付録挟み、紐等で縛ります。
そして売り場に出す際、互い違いなど均等に積むと綺麗に積める。
綺麗に詰めると雪崩が起きにくくなり、メンテナンスが楽になる。

品出し

付録を付けたら、いよいよ売り場に出すわけですが、出してはい終わり!とはいきません。

前号の雑誌を抜き取ったり、領地を確保したりする作業をします。

前号の雑誌を抜き取るだけでは領地を確保出来ないので、

数が少ない雑誌を面陳平積みから差し※3、4、5にしたり、

売れていない雑誌やまもなく返品する雑誌などをハンディ端末で調べて抜き取ります。

判型の大きさも違いますし、本同士のジャンルやカテゴリーの相談もありますから、

もはやテトリス状態です。

この作業を極力開店前までに終わらせます。

私は8時から出勤していましたが、6~7時から出勤している方もいました。

 check!! 

※3【面陳】

面陳列の略。
高さにもよるが立っている人間の目に付きやすく、
なおかつ手に取りやすいという大きなメリットがある。
しかし、展開出来る数が少ない上に痛みやすいというデメリットを持つ。

※4【平積み】

本を積み重ねて展開する方法。
目線を下に向けないといけないので面陳に比べると若干弱いが、
それでも十分インパクトは大きい。
しかし、位置にもよるが展開出来る数は限られる。

※5【差し】

本の背表紙が見える状態で展開する方法。
情報量は少なく、手に取らないとわからない部分が多いが、
展開出来る量は圧倒的に多い。
本が一番傷みにくい展開方法でもある。
その反面、複数冊を置く場合には適していない。

3.定期購読のメリット・デメリット

雑誌と言えば「定期購読」というサービスが書店にはあります。

これは毎月買う雑誌を取り置きしておいてくれるというものです。

これだけでも十分メリットなのですが他にも取次※6が扱っていれば、

店頭に無いようなマイナー雑誌が店頭で買える、

取り置いた雑誌は一度も売り場には出さないので綺麗な状態で購入出来るなどの

メリットもあります。

ただし、入荷したら欲しくない号でも必ず買う必要があります。

デアゴスティーニ系のように絶対に毎号必要であれば良いのですが、

そうでない場合は欲しくないのに買うということになるので、そこはデメリットでしょうか。

 check!! 

※6【取次】

問屋の事。
出版業界のボスであり、ラスボス。

一方、書店側のメリットですが、

定期購読してもらえれば、毎月来店してくれる上に

雑誌以外にも何か買ってもらえる可能性があるので、売上を上げる要因になります。

なので会社・店舗的には「定期購読をとにかく増やせ!!」という方針なのですが、

闇雲に定期購読者を増やすと上記で触れたように

定期購読したのに買ってくれない人が増えたり、

入荷してる雑誌を買わずに定期購読を辞めたいと言う人が増えたりと、

現場的には良い記憶はあまりありませんでした。

こういったところは書店側のデメリットと言えるかもしれません。

更にその定期購読はアナログな方法で管理してましたので、

無闇に増やすとどんどん顧客管理が大変になっていきます。

4.定期購読のアナログ管理

さて、そのアナログ管理について触れます。

定期購読ですが、顧客管理がとにかく大変でした。

この1冊の定期購読に対して、まず下記の3点の情報を管理しなければなりません。

1.誰のものかを示す雑誌に挟む短冊と呼ばれるしおりのようなもの

2.雑誌が入荷したか、購入したかを書く台帳

3.定期購読されている雑誌がちゃんと入荷されるかの事前チェック

私の書店ではそれらの顧客情報をパソコン上で管理するという

データベースのようなシステムはありませんでした、全て紙です。

紙で管理していた結果、下記のようなことが起こります。

1.定期購読の担当と、数名が日替わりで手伝うので、字の種類が多種多様

2.とにかく数をこなす作業なので、人によっては字が判別出来ず読めない

3.何百件という顧客情報を管理する為、欲しい情報を探すだけで一苦労

4.みんなパソコンスキルが無かったので改善しようにも、改善出来ない

40~50代主婦の方が多かったのですが、

パソコンスキルを持っている方が皆無でこういう状況になっていました。

定期購読の処理だけで1~2時間は軽く取られますので、

無駄に面倒臭いやり方で管理してたなぁ…って今でも思います。

5.雑誌のクレームとエピソード

最後に雑誌系で良くあったクレームパターンを2つと

雑誌にまつわるエピソードをひとつほどご紹介します。

クレームその1 「この付録が付いてないor不良品なんだけど?」

書店の付録を付け忘れ、付録の初期不良、万引き等の被害など理由は色々ありました。

いずれにせよこれらは、売り場にあるものと交換して対応したりします。

原因が何かにもよりますが、店頭に在庫がない場合が若干大変で、

快く受け入れてくれる方と渋い顔をされる方がいました。

クレームその2 「定期購読辞める時全部買えって聞いてないけど?」

雑誌系でやっかいなのはこのパターンです。

書店にある書籍は基本的に全て書店が買い取ってはおらず、

売れなかった場合は返品するのですが、雑誌には「返品期間」というものが存在します。

極端な例ですが、数年前の雑誌を返品しても書店に戻ってきてしまうんです。

定期購読というのは「この人が買ってくれる」という前提で取り置いているので、

買ってもらえないと、とあっさり返品期間に引っかかり返せなくなります。

雑誌というのは基本的に最新号を売るものですから、併売も出来ず不良在庫と化します。

「じゃあ、その雑誌はもう不良在庫の道しか残っていないのか?」というと

そういうわけではありません。

こういう場合、出版社に直談判して返品の許可を得ます。

担当の営業さんに相談する場合もあります。

いずれにせよ許可がもらえる場合もありますし、断られる場合もあります。

この辺は追々詳しく書きます。

なので、書店側の対策としては「絶対に説明する」という事になるわけですが、

その「絶対に説明した」という証明するものはありませんでしたし、

今の時代お店よりお客が強い時代ですから、あまり強く言及も出来ずほぼ泣き寝入りでした。

今にして思うと一筆書いてもらう仕組みがあれば、

多少マシだったのかもしれませんが、ゼロにするのは無理だろうなぁ…と思います。

エピソード 妖怪ウォッチ争奪戦

雑誌は書籍と違って再刷・再版といったことは基本的にしないので、

特定の号がプレミア化されると戦争になります。

よく「注文すれば出版社刷ってくれるんじゃないの?」と言われることもありましたが、

最初に刷ったものの返品されたものや在庫として持っているものを

出してくれているだけであって、新たに刷ってはくれません。

さて、そんな限られた期間にしか存在しない雑誌ですが、

妖怪ウォッチブームの時すごかったんです(2014年ごろでしょうか?)。

あの当時、雑誌の『妖怪ウォッチまるごとともだちファンブック』※7がプレミア化して、

お父さんお母さん達が我が子の為に争奪戦を繰り広げていました。

 check!! 

※7【妖怪ウォッチまるごとともだちファンブック】

妖怪ウォッチのコンテンツに特化した別冊コロコロコミックの雑誌。
限定の妖怪メダルが付属するのでプレミア化した。

私のいた書店にはシャッターがありませんでしたので、

店の前でお父さんお母さんが殺気立って開店を待ってる人達が見えるんです。

窓拭き掃除してる時も、雑誌の品出ししてる時もずーっとその人達に見られてるわけです。

そしてオープンの時間。

ドアを開けた瞬間その人達が店内を猛ダッシュして売っている所で向かうんです。

正直、二度と見たくない光景でした…。

というより、店内を走らないでください…私がそれを見て抱いた感想はそれだけです。

編集後記

今回は第1回ということで朝一番のお仕事「雑誌」について書きました。

本が売れなくなって久しいですが、全体でみると雑誌が占める部分はかなり大きく、

定期的に書店に行く理由を作ってくれる生命線と言えるかもしれません。

とは言いつつも、自炊※8に始まり、今は雑誌の電子書籍化もありますから、

それにも限度があるとは思いますが…。

 check!! 

※8【自炊】

買った雑誌を裁断、スキャン、PDF化して、
スマートフォン等で閲覧出来るようにすること。

次回は売場を作る為に必要な基礎の基礎、「書籍の注文」について扱います。

よろしければ、次回もお付き合いください。

ご覧いただきありがとうございました。

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