元書店員の本屋の話
今回は書店員をしていた頃の書店事情についてのお話です。
堅苦しいような書き方しても面白くはありませんし、私にそんなことは出来ませんので、
ざっくばらんに時にはおちゃらけながら当時の事を書いていこうと思います。
出版社の皆さま、著者の皆さまをはじめ、書店に興味ある方に
書店のことを少しでも知っていただければ幸いです。
さて、第2回のテーマはこちらになります。
本日のテーマ
思い描いた売り場を作る -注文編-
1.番線印とは?
2.本を注文する
3.信用出来ない営業
連載一覧
・【2冊目】思い描いた売り場を作る -注文編-
ご注意
- 当記事は過去に私が書店で経験した内容になります。
全国の書店がここに書かれていることと同じとは限りません。
- 出版業界の情勢上、批判的なことを書くこともありますが、
他の書店や書店員を否定・貶める意図はございません。
- 以上をご理解の上、数ある情報のひとつとしてお読みくださいませ。
思い描いた売り場を作る -注文編-
1.番線印とは?
本を注文するにあたり、まず書店側は『番線印(ばんせんいん)』というものが必要となります。
まずはここについてお話します。
これは、アルファベットと数字で作られたコードで、言わば「書店の住所」です。
取次は書店名+番線コードで各店舗を管理しています。
また、番線印には決定印の役割も果たします。
インターネット通販に例えると「届け先の住所」や「注文を確定する」に相当します。
注文書にどれだけ数字を書いても注文しても、
それは「カゴに入れている」だけに過ぎず、番線印が無いものは注文が通りません。
そしてこの番線印は書店員以外が押すことは出来ません。
なので、どんなに営業さん等が無茶な数字を提案してきても、
書店員が番線を押さなければその注文書は通りません…表向きには。
裏向きの話については後で触れます。
2.本を注文する
さて、売場を作る為実際に本を注文するわけですが、
主に以下の方法があります。
1.NOCSや会社のシステムなどのオンライン注文
2.電話での注文
3.FAXでの注文
4.営業・営業代行・著者さんなど対人での注文
5.本部発注
6.自動発注
1.NOCSや会社のシステムなどのオンライン注文
NOCS、Nippan Online Communication Systemの略で、
日販が提供しているオンライン上で本を注文出来るサービスです。
タイトルやキーワード、ISBNコード※1で本を検索し、注文数を入力し注文します。
店舗に届くまでの日数ですが、早ければ大体4日~5日ほど、遅いと1~2週間ほどかかります。
また『本の超特Q!Quick Book』という客注専用の注文方法もあります。
こちらは店舗に到着する日付が注文前から分かる上に~3日で店舗に届きます。
その他にも各種情報を閲覧することが出来ます。
日販系列の書店であれば、日々必要とするサービスです。
check!!
※1【ISBNコード】
本のバーコード部分に記載されている13桁の数字。
ISBNコードが分かると本の特定が容易なので、
本を探している場合、このISBNコードを伝えるとスムーズ。
NOCSは日販が作ったシステムですが、
その他に書店特有のシステムから注文する方法もありました。
パソコンのスペックが低い上に、システムがやたらと重い上に、見づらいと
使う理由があまり無かったので私はほとんど使いませんでした。
一括で大量に注文する時に使用したぐらいでしょうか。
2.電話での注文
次に電話での注文です。
これは出版社さんに直接電話をして注文する方法です。
口頭でタイトルと冊数、番線コードを伝え、注文します。
3.FAXでの注文
書店には毎日大量の注文書やダイレクトメールのようなものがFAXで届きます。
冊数と番線印を押してFAXを送り返すと注文できます。
4.営業・営業代行・著者さんなど対人での注文
書店には出版社の営業さんが日々いらっしゃいます。
営業さんは新刊案内、欠本チェック※2、フェアの提案などをしてくれます。
営業代行は文字通り、出版社の代わりに営業をしている方達です。
一人で複数の出版社を扱っている場合がほとんどです。
そして最後に著者さんです。
自分の本を売り込みにいらっしゃったり、自身の本を買ったりします。
「売り込みは営業がやるので、売り込みはしないでくれ」という出版社もあるようです。
詳しいことはわかりかねますが、全体で見るとこちらの場合が大多数だと思います。
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※2【欠本チェック】
売場にある自社の本の在庫をチェックすること。
全ての本の在庫をチェックする会社もあれば、
売れ筋の在庫チェックのみのする会社もある。
NOCSとそれ以外の注文の違い
▲注文の違い
ここでひとつNOCSとそれ以外の注文について書きます。
前述通り、NOCSは日販が作ったシステムです。
ですから注文は日販に行き、日販の持っている在庫が書店に届きます。
なので、届く日数は割と早いです。
しかし、それ以外の注文は出版社に対する注文です。
出版社に注文する場合は「日販にある在庫を所定の書店に届ける」のではなく、
「自社が持っている在庫を日販に送り、日販が書店に届ける」となります。
つまり、輸送時間が出版社の場合の方が長いわけですから、
必然的に書店に届くまでの日数に時間がかかります。
「出版社に直接注文するメリットはないのではないか?」と思いますが、
出版社に注文するメリットはあります。
それは「確実に書店に届く」ということです。
日販への注文の場合、持っている在庫を全国へ分配しているので、
人気の本、在庫稀少の本など様々な理由で注文した数が満数届かない場合があります。
注文したのに連絡なしに全く届かないなんて場合もよくあります。
これって冷静に考えたらものすごくおかしいことなんですが、
そういうことが日常茶飯事で起こるんです、この業界では。
「出版社に在庫はないが、日販にはある」
「日販に在庫はないが、出版社にはある」
などのパターンもありますが、それぞれの注文方法を必要に応じて使い分けます。
私の場合は日々売れた本は日販へ注文、
フェアなど特設コーナーに置く本は出版社へ注文というような感じでした。
5.本部発注
本部が店舗の在庫を見て必要に応じて注文する方法です。
書店員の意思に関係無く、本部が発注すれば問答無用で届きます。
傾向としては定番の本が多かった記憶です。
後は社長の書いた本とかの会社の都合の本でしょうか…。
6.自動発注
日販が売れたものを自動で発注してくれるシステムです。
しかし、全てを自動発注してくれるわけではありません。
ランキングの高い本は発注してくれますが、ランキングの低い本は発注してくれません。
「自動発注を続けていくと売れ筋の本だけが書店にある状態を作れる」
というのが日販の意図だと思われます。
私個人としては「これどうよ…?」って感じですが、この辺は追々書かせていただきます。
3.信用出来ない営業
最後に注文に関する話として、日常的に起こる出来事をひとつご紹介します。
サブタイトル通り、「信用出来ない営業」についてです。
前述通り、営業さんは売場をチェックして本と冊数を提案する、
書店員はそれを見て冊数を調整し、番線印を押し、本が届く。
これが本来あるべき姿です。
しかし、この番線印の押された注文書に改竄を加える営業さんがいます。
1冊しか注文していない本を4冊に書き加えたり、
注文もしていない本に数字を書き加えたり…。
番線印を手に入れたことをいいことに、
そういうことをする営業さんが残念ながら何人かいました。
いくら担当の営業さんが変わってもずっとやっていた会社もありましたので、
もう会社の方針なのでしょう。
名指しすると色んな人から怒られそうなので伏せますが、
特に凄かったのはT社です…あれは本当に凄かった。
そうやって余計に届いた本はどうしていたかというと、
私は売場に出さずストッカー※3に入れて眠らせておきました。
なんかもう心情的に「出したら負け」っていう気分でしたから。
本当に頭にきた時は即座に返品していましたが、
あまり褒められたことではないので、滅多にやりませんでした。
理不尽ではあるんですけれども…。
check!!
※3【ストッカー】
売場に出せない本を保管しておく場所。
店にある本は全て売場に出すというのが基本だが、
売場の都合上どうしても出せないものはストッカーに入れて保管しておく。
編集後記
第2回の今回は「本の注文」について書きました。
どうしても見えざる手と折り合って注文する必要があり、大変・面倒ではあるのですが、
「自分の売場を作る為に自分で選書して発注する」というのは、
書店員という仕事の醍醐味ではないでしょうか?
…とは言いつつ、昔に比べて自動発注の地位が年々かなり強くなっているようで、
その醍醐味が失われつつあるようです。
さて、次回は実際に届いた本の入荷と品出しについて扱います。
よろしければ、次回もお付き合いください。
ご覧いただきありがとうございました。
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