元書店員の本屋の話
今回は書店員をしていた頃の書店事情についてのお話です。
堅苦しいような書き方しても面白くはありませんし、私にそんなことは出来ませんので、
ざっくばらんに時にはおちゃらけながら当時の事を書いていこうと思います。
出版社の皆さま、著者の皆さまをはじめ、書店に興味ある方に
書店のことを少しでも知っていただければ幸いです。
さて、第3回のテーマはこちらになります。
本日のテーマ
思い描いた売り場を作る -品出し編-
1.箱開け
2.本と棚番号
3.シュリンク
4.品出し
5.箱開けエピソード 「足跡のある本」
連載一覧
・【3冊目】思い描いた売り場を作る -品出し編-
ご注意
- 当記事は過去に私が書店で経験した内容になります。
全国の書店がここに書かれていることと同じとは限りません。
- 出版業界の情勢上、批判的なことを書くこともありますが、
他の書店や書店員を否定・貶める意図はございません。
- 以上をご理解の上、数ある情報のひとつとしてお読みくださいませ。
思い描いた売り場を作る -品出し編-
1.箱開け
前回、注文についてあれこれ書きましたが、注文された本は朝雑誌と共に書店に届きます。
私がいた書店の場合はまず雑誌を片付け、朝礼をして開店、その後箱開けという流れでした。
箱開けとは何かというと本の入ってる段ボールを全て開封して、
ジャンル毎に本を台車に乗せるという言葉通りな作業です。
毎日何百冊と入荷してくるわけですから、
ジャンル毎に仕分け作業をしないと途方もなく効率が悪いのです。
2.本と棚番号
入荷した本には「棚番号」というものが割り振られています。
「Aという文庫本は1234という本棚に登録されているから、そこに出して」というように
本の出すべき場所を示す情報です。
私もハッキリとしたことはわからずじまいだったのですが、
店の棚は情報は簡単に変更出来るものではなく、そしてどこかへ送信していました。
なので、本部なのか取次なのかわかりませんが、
そのデータと本のジャンルの情報を紐付けして出された情報だと思われます。
間違っている棚番号は売場に出す際、ハンディ端末で個別に修正していきます。
退勤する際に修正した情報をまとめてパソコンに登録し翌朝その情報が反映される、
という流れでした。
「検索機でこの棚にあるって書いてあるのにその売場になかった」
本を探す時に多くの方がこういう経験をしたことがあるかと思いますが、
これは本の棚番情報がまだ反映されてなかったり、修正していなかったり、し忘れていたり、
修正したのに登録していなかったり…というところから発生するものです。
3.シュリンク
本を出す際、必要に応じて「シュリンク」をかけます。
中を読めないようにビニールで包装がシュリンクで、
よくコミック系がシュリンクされているのを見かけます。
シュリンクは本に透明なビニール袋を入れて加熱する作業です。
加熱されるとビニールが縮小し、本のサイズピッタリの包装になるわけです。
▲シュリンク
見づらくて申し訳ないですが、当時撮影したシュリンクの写真です。
左奥が何もしていない状態、真ん中と右手前がシュリンクを施した状態です。
真ん中が綺麗にシュリンクされていないのは主に加熱不足が理由です。
十分な熱を均等に加えると手前のように綺麗なシュリンクがかかった状態になります。
光沢が出来て綺麗、誰も中を見ないので状態が良いというのは、
シュリンク最大のメリットだと思います。
ただし、熱を強くかかりすぎてしまうと本が変形してしまうので要注意です。
(コミックとか柔らかい本は、「~」みたいな状態になってたりします)
その他万引きや防犯タグを入れて防犯対策したり、値段の高い本は全てシュリンクを施して、
読みたいと言われたらその都度開封するという場合もあります。
私の場合は一番上の一冊を立ち読み用、後は購入用としてシュリンクを施していました。
しかし、立ち読み用の本を買われてしまうとその本は誰も読めなくなってしまうので、
売場を随時チェックする必要がありましたが…。
4.品出し
棚の情報を確認・修正しながら、入荷した本を売場に出していきます。
必要に応じて出版社さんが作られたパネルやハガキサイズの拡材や、
手書きのPOPなどで訴求力を高めたりしながら、多種多様に色んな本を出していきます。
その他にも清掃等のメンテナンスも一緒に行います。
書店員の主な仕事はここで、勤務時間のほとんどはこの作業をしています。
本の出し方は第1回の注訳で触れましたが、改めて本の出し方を書いていきます。
1.平積み
▲平積み
まずは平積みです。
表紙が見える状態で積み重ねていきます。
奥側に高くなるもの、手前側に低くなるものを置いていくと綺麗な階段状態になり、
全体的に本が取りやすい状態になります。
手に取りやすく様々な本の表紙が見えるので、訴求力が高い展開方法と言えると思います。
デメリットとして本状態の擦れで角が傷む可能性がありますが、
比較的痛みにくい展開方法です。
2.面陳
▲面陳
次に面陳です。
表紙が見えるように立てかけて展開する方法です。
平積みと違って棚があればどこでも展開出来て、表紙を見せられるのがメリットでしょうか。
しかしながら立てかけている以上、本が歪みます。
歪んだ本は手に取ると「ゴワゴワしていて、なんかシックリしてない…」という
何とも言えない気持ち悪さがあります。
この展開方法が一番本を傷めると思います。
前述通り棚があれば何処でも出来ますし、
均等に展開すると「なんとなくオシャレ」に見えるので、とても多用されます。
歪んだ本を元に戻すのはほぼ無理で面陳はとても嫌いなんですが、
会社は「複数冊あるなら、どんどん面陳しろ!」という方針でしたので、
やりたくないのにやらざるを得ないという複雑な心境でした。
3.差し
▲差し
最後に差しです。
差しは本の保管としては基本中の基本で、
背表紙が見えるように本を刺して展開していきます。
訴求力があるかないかは別として、
シリーズものや同一作者で並べるととても美しく映えます。
この展開方法が一番本を痛めないと思います。
本を取る時みんな角に指をかけて倒すように取るので、角が痛みやすくはあるのですが。
5.箱開けエピソード 「足跡のある本」
さて、最後に箱開けにまつわるエピソードなんですが、
これは「書店の話を連載しよう」って決めた当初から絶対に書こうと決めていました。
私の知る書店時代のエピソードしては良くも悪くもトップクラスのお話です。
サブタイトル見ればおわかりだと思いますが、「足跡のある本」です。
ある日。いつも通りに段ボールを開封して仕分け作業していると
ページ数があまりないムック本だったと記憶していますが、
裏表紙に見てすぐ分かるぐらいの足跡がついたものが入荷されていたんです。
当然「犯人誰だ!!」ってなるわけですが、
犯人はどう考えても日販でしょう…というのが私達の意見でした。
濡れ衣だったらごめんなさいなんですが、普段から乱雑に入ってることが多いので、
疑いの目がいくのはごくごく当たり前だと思います。
私の価値観ですが「物を踏む」っていうのは人としてやってはいけない行為で、
その中でも「本」っていうのは踏んではいけない上位にいると考えています。
(誰に教えられたわけでなくこう思うのが不思議ではあるのですが…)
そうは言っても、うっかりしていて本を踏んでしまうこともあるでしょう。
しかし、その場合は布で拭いたりすると思うんです。
そういったこともせず堂々と足跡の着いた本を書店へ送る。
なんかもう、ただただ悲しかったですし、今思い出して書いていても悲しくなります。
この出来事は1回しかありませんでしたが、
本を踏んでも何とも思わない人達が仕事してるんだなぁ…と思ってしまい、
それ以降日販に対する見方がかなり変わりました。
編集後記
第3回の今回は「本の品出し」について書きました。
発注編と品出し編のふたつに分けて書きましたが、
「思い描いた売り場を作る」と題した通り、これらが書店を作る要の作業です。
「どういう本が地域の人の興味をそそるか?」
「どうやって展開したら、お客さんは本を取ってくれるか?」
「どうやって展開したら、売り場が綺麗に映えるか?」
「どうやって展開したら、作った人達が喜んでくれるか?」
「自分が作りたい売り場は何か?」などなど
書店員は色んなことを考えながら売場を作っています。
書店に行った際、書店員になったつもりで売り場を眺めてみるというのも
なかなか楽しかったりしますよ。
次回は特設コーナーなどで展開される、「フェア」について扱います。
よろしければ、次回もお付き合いください。
ご覧いただきありがとうございました。