元書店員の本屋の話
今回は書店員をしていた頃の書店事情についてのお話です。
堅苦しいような書き方しても面白くはありませんし、私にそんなことは出来ませんので、
ざっくばらんに時にはおちゃらけながら当時の事を書いていこうと思います。
出版社の皆さま、著者の皆さまをはじめ、書店に興味ある方に
書店のことを少しでも知っていただければ幸いです。
さて、第5回のテーマはこちらになります。
本日のテーマ
束の間もしくは永遠の別れ、返本作業
1.返本とは?
2.返本出来ないもの
3.返本基準
4.返本作業
5.エピソード「それを 返本するなんて とんでもない!」
連載一覧
・【5冊目】束の間の別れ、返本作業
ご注意
- 当記事は過去に私が書店で経験した内容になります。
全国の書店がここに書かれていることと同じとは限りません。
- 出版業界の情勢上、批判的なことを書くこともありますが、
他の書店や書店員を否定・貶める意図はございません。
- 以上をご理解の上、数ある情報のひとつとしてお読みくださいませ。
束の間の別れ、返本作業
1.返本とは?
基本的に私のいた書店の入荷と売上の関係は「本の入荷冊数≧本の売上冊数」でした。
毎日様々な本が売れ、それを再注文するのでこれだけであればイコールの関係ですが、
これに+新刊という要素があるので基本的に売り上げた冊数より、多い冊数が入荷します。
そうすると当たり前ですが、本棚がキャパシティオーバーになるので、
適度に本を間引く必要があります。これが返本です。
なので返本とは売場から本を抜き取り、取次に返す作業と思ってください。
2.返本出来ないもの
返本といっても、何でもかんでも返本していいわけではありません。
「返本出来ない本」というのが存在します。
1.新刊
お店の独自ルールだと思いますが新刊は返本出来ず、
発売から3ヶ月は返本してはいけないというルールがありました。
例を挙げると1月1日に出た新刊は3月1日まで返本することが出来ません。
理由は取次の配本に起因します。
例えば、四畳半編集部がAという本を50冊刷ったとします。
取次は都内にある大手書店は売れる見込みが多いので40冊、
地方にある小さな書店は売れる見込みが少ないので10冊を配本しました。
発売後、大手書店では思うように売れず数日後に数冊残して返本しました。
一方小さな書店ではコンスタントに売れていました。
次に四畳半編集部がBという本を50冊刷りました。
Bは発売前から売れる見込みがかなりあるタイトルでした。
大手書店は前回数日で大量に返本をされたので今回は20冊を配本しました。
小さな書店は前回そこそこ売ったので30冊を配本しました。
発売後、大手書店は配本された20冊を全て売り切り、在庫が切れてしまいました。
注文をしても出版社や取次に在庫が無く、
売り時に売れないという状況になってしまいました。
つまりこういう事です。
取次は星のようにある出版社を束ね、全国の書店へ本を配本していますが、
「この書店はすぐ本返してくるな…なら、次から配本数減らして他に充てよう」
ということになるわけです。
そうなるとビッグタイトルの書籍の配本数などにも影響しますので、
「新刊はすぐに返本してはいけない」というルールが生まれるわけです。
2.買い切りの本
書店は本を買い取っていませんが、一部「買い切り商品」というものが存在します。
岩波書店は有名な買い切りの出版社です。
基本的に買い取ったものなので返本出来ませんし、返本しても戻ってきてしまいます。
3.破損が著しい本
返本された本は取次を通してまた他の書店に流通します。
ですから再流通出来ないような破損が著しいものは返本出来ません。
こういう場合は出版社さんに電話やFAXで「返本許可」をもらい、
許可が下りれば返本することが出来ます。
3.返本の基準
返本出来ないものをまとめると「買い切りではなく、破損が著しくない既刊」が
返本出来るわけです。
書店にある本のほとんどはこの「買い切りではなく、破損が著しくない既刊」ですが、
その中から返本される選定理由をいくつかご紹介します。
1.旧版・旧年度版
第2版が発売されたので初版を返す、
今年のものが発売されたので去年のものは返すなど最新のものに入れ替える為の返本です。
売れなかったから、汚れてるからなどそういった後ろめたさのようなものが無いので、
気持ち的に一番返しやすいタイプの選定理由です。
2.未稼働日数が長いもの
ハンディ端末で本を照会すると「未稼働日数」というものがわかります。
これは入荷してから何日間売れていないか?を示すものですが、
これが長いものは選定材料となります。
私は未稼働が200日を越えたものは返本していました。
3.破損や色褪せ
商品として品質を満たしていないもの、
ページが折れていたり、色褪せてしまったもの等は返本していました。
色褪せてしまったものの場合に関しては、
出版社からカバーを取り寄せて綺麗なものにするという選択肢もあります。
4.値段の高い本
決算や棚卸しの月はかなり数の本を返本しなければなりません。
これらは数字が求められるので「在庫を〇〇万円以下にする」というのが目標になります。
しかし返本し過ぎると売場がスカスカになる為、
どうしても専門書などの高い本は優先されてしまいます。
5-1.好み
私情ではありますが、書店員にとって自分の担当の棚は自分の家の本棚と同じです。
自分の家に好きじゃない本はやっぱり置きたくないのと同様、
装丁や内容、気分などの理由で好きになれない本は返本されます。
逆にお気に入りの本は上記で紹介したものに該当していても、残したりします。
5-2.私の好きになれない本
私の好きになれない本は以下のようなものです。
本題と関係ない上に個人的な意見なので、興味なければ次の項目へお進みくださいませ。
・著者の顔出しがやたらとプッシュいるもの
男性著者の腕組み、女性著者の微笑みが定番のポーズ。
芸能人等は全く構わないんですが、それ以外正直顔出しの必要性を感じません。
まるで、顔で本を売っているようであまり好きになれないのです。
・思想が偏っていたり、現代にそぐわないような本
政治系や仕事術系が顕著。
政治系はここで語ることは何もないです、お察しください。
後者は独自のルールや前時代のルールを押しつけるような本などです。
ビジネスマナーの本などは「そんなの聞いたことない!」とツッコミたくなるような
思う本が沢山あります。
4.返本作業
さて、では実際に売場から抜き取られた本をどうやって返本するのか?という話です。
本は入荷時の段ボールに詰めて届きますが、この段ボールを使用します。
ただ闇雲に詰めていいという訳ではなく、
文庫、コミック、書籍、雑誌、ムックなどにジャンル分けして箱詰めします。
これは店舗のルールなのか取次のルールなのかはちょっとわかりません。
そして夜に業者さんが回収してもらって取次へ届けてくれるという流れです。
翌日の朝にはまた本が入荷するので、箱開けして品出し、
その段ボールを用いて返本するというこのサイクルを毎日繰り返します。
5.エピソード「それを 返本するなんて とんでもない!」
最後に返本に関するエピソードです。
前述通り「買い切りではなく、破損が著しくない既刊」は返本出来るわけですが、
例外として返本出来ない本が存在します。
それは「社長絡みの本」です。
私が担当者になって間もない頃、
売場に1冊も出ておらず、何年も売れていない本がストッカーに十数冊ありました。
私はそれを「邪魔だし、返本しちゃえ」と返本したんですが、
後日「社長の息がかかった本を返本するとは何事か!」と怒られました。
そして、全て戻ってきました。
何故ストッカーに眠っていたか納得した一件でした。
小耳に挟んだ話ですが、この本が発売された当初お店のスタッフは全員
配られたか買わされたかされて、感想文を書くように言われたとか。
私は娯楽を強制した挙げ句、感想を求めるというのはマナー違反だと考えてますので、
情けないぐらい幼稚なことをしているなぁ…と思いました。
編集後記
第5回の今回は「返本」について書きました。
返本というのは、自分がこの本を売ることが出来なかったという事実と向き合う作業です。
ですから、どうしても多かれ少なかれ心苦しいものです。
以前とても良くしてもらっていた営業さんから聞いた話ですが、
本というのは舞台役者のようなもので
然るべき物語で然るべき配役をすれば、その本は売れると言いました。
これにはとても納得でした。
今日の書店は売れない本は置かず、売れる本を置くというのが流れですので、
さしずめ、シンデレラが10人いる学芸会のようなものでしょうか。
さて、次回は「コンビニ化する書店」について扱います。
よろしければ、次回もお付き合いください。
ご覧いただきありがとうございました。